ソマティクスは単なる反復運動ではありません。反復運動(エクササイズ的動作)を繰り返したところで、それは中枢に変化をもたらしません。
筋膜(抹消)と対になる中枢(脳神経系)を有効に働かせ、機能改善をもたらすためのオープンパスメソッドの理論的背景(及び技法体系)はワーキングメモリと深く関わります。
そのため、本日第四回目の講義では記憶貯蔵庫→短期記憶→長期記憶のつながり、選択的な感覚留意や短期記憶の強化、そしてソマティクスの演習に利用できるワーキングメモリの活用法について詳細にわたって説明をしました。
一般にいう「トラウマ」は、エピソード記憶が長期記憶として蓄積されています。
長期記憶になるまでの過程で、間違った認識(認知)が反復、強化され恐怖が立ち上がってしまうことが問題となりますが、生憎ながらこのトラウマウと身体構造や身体機能との相関関係は明確になっておらず、むしろ疑問視されています。
一部のボディワーカーが「恐怖の記憶は筋膜に宿る」と提唱していますが、これには学術的な裏付けがありません。
また、感覚記憶から短期記憶へ移行するための助けになる各種モダリティは、身体ともトラウマとも独立して存在し、なおかつ変化のためのツールとなっています。
「トラウマと筋膜」「トラウマと重力」が、ある団体内では「約束事」となっていますが、この約束事が通用しない対照群に対して「トラウマワーク」を行った場合に、果たして望むような結果が出るでしょうか?
お約束ごとを知っているからこそクライアントの深層心理がそれを引き受け、見合った結果を見せてくれる可能性は大いにあります(しかしながら、これはボディワークに限らずドグマを教え込む、どの団体にも見受けられる暗黙の了解です)。
トラウマを解消しようと身体を押したり引張ったりする療法よりも、認知療法(考え方のフレーム=枠を変える心理療法)が効果的なことは、これまでの臨床研究で有意差が現れていることからも伺えます。
ボディワーカーならば、トラウマにとらわれずにワーキングメモリの作業台に載せられる各種要素を活用して「身体的、認識的に」変化を起こすことを試みるべきです。
有効性が疑問視されるトラウマの処理は、ワーキングメモリとは関わりを持ちません。
できることはできるけれど、できないことはできないと、常日頃から自分の許容範囲を認識しておきたいものです。
