代替医療を説明するものとして引用されることが多いこの説が覆されていることは、あまり広く知られていません。
ゲートコントロール説は、痛みをブロックする「ゲート」があるという機序で説明されています。
つまり、触覚に関する太い神経と、痛覚に関する細い神経の末端から出される興奮性伝達物質は、通路にある「門番役」が出すニューロンによって抑制されるという説です(シナプス前抑制と呼ばれる機序)。
痛みの第一研究者である熊澤孝郎氏は、著書のなかでこのように説明しています。
『この説で触覚と痛覚を切り替えるもっとも重要な機序は、シナプス前抑制役の門番ニューロンに対して触覚神経は促進、痛覚神経は抑制に働くという点にあり…その実験はあまり厳密なものではなく、拡大解釈も多く、またその後になされた実験結果ではこの肝心な点に誤りが指摘され、このままの形では科学的には否定されました。しかしこの説は特に心理系の研究者への受けが良く、今でもこのゲートコントロール説は痛みを扱う心理の教科書に必ず書いてあります』※
とても残念なことに、このような形で働く門番はないのだそうです。
今ではこの説は元の形では誤りであることが明らかになり、修正説も出されましたが「サイエンスとして最も魅力的な部分が霧散してしまい、単なる物語に終わってしまっています」と綴られています。
しかしながら、この説が元となりいろいろな研究がされたことを考えると、その功績は別の意味で評価されるべきだと思います。
例えば電気治療、刺激鎮痛などがそうです。
一般的に知られているのは抹消に働きかける経皮的電気刺激療法です。
痛みのある場所あるいは、そこから痛みを中枢に伝える末梢神経を覆う皮膚の上に一対の電極を置いて電気刺激する除痛法で、これはゲートコントロール説に基づいています。
似たような療法ですが、ゲートコントロール説に基づかない方法として、Silver spike points療法: SSPがあります。
鍼麻酔という実践を通して生まれた療法で、阪大で積極的な研究がされているようです。
Silver spike points (SSP)という金属製の特殊な電極を皮膚に吸着させ、低周波による電気刺激を行うことでで疼痛の緩和と局所血流の改善を促す効果があるとされています。この電極は、ツボ(経穴)を治療のターゲットにしているのが特徴ですが、ツボに限らず、圧痛点やトリガーポイントを刺激することが可能です。治療は、疼痛ばかりではなく、ストレス緩和やリハビリテーションの分野にも応用されています。
http://www.osaka-med.ac.jp/~ane000/shinkyu5.html
見た目は似たような機械刺激ですが、研究対象とする学説が異なり、作用機序が違えば結果に大きな差が出るのは間違いありません。
通っている整形外科ではSSP療法を取り入れていますが、残念ながら効果は顕著に現れません。
次のブログでは、その原因を探ってみたいと思います。
上記は、小川隆之氏との勉強会用に作成した資料の一部です。
※『痛みを知る』熊澤孝朗 P48
