2014年09月06日

子どもに伝える美術解剖学

最近読んで面白かった本をご紹介します。
『子どもに伝える美術解剖学 目と脳をみがく絵画教室』布施英利 ちくま文庫

美術解剖学.jpg

著者は、医学博士の養老孟司氏の元で人体解剖学の研究生活を送りました。また発生学の三木成夫博士の後輩にあたる人物でもあります。

二日間の体験学習を通じ、こどもたちに魚の絵を描かせることを課題として本書は始まりますが、著者の体験から構成されたこのワークショップはただの絵画教室にはとどまりません。
バスで池に行きフナを釣り、それを解剖する経験を通して生き物としての「魚」を理解し図に書く行程が詳しく書かれています。
それだけではなく、本書には作者がこれまで学んできた人体に対する知識が随所に見受けられ、美術と人間についての理解を深める一冊にもなっています。

歴代の有名画家の作風の違いは「目の視覚」「脳の視覚」によるもので、それは光を取られているか重量感をとらえているかに現れることを示していますが、この視覚の説明は作者ならではの理解だと思われます。
光の画家モネの作風とぽってりとした丸みを持つセザンヌが画風は明らかな違いを持っています。
こうした違いと内臓感覚との関連を説き、「こころ」の存在は内臓にあるとした三木成夫の説を、自然の摂理の視点から裏付けています。

描くことは自然において行われるべきであり、その始まりは観察することであると著者は主張しています。
自然に触れ、死を体験することで生きることの実感を掴む子どもたちの姿が活き活きとしており、また先入観に汚されていない子どもの視線がとらえる風景が新鮮です。
ボディワークを学ぶ方であれば、系統発生や個体発生の説明、生物の進化やこどもの成長に関する生理学と内族感覚のつながりなど興味深く読めるのではないでしょうか。
人体を理解するうえで重要な情報が凝縮された一冊です。
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